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潮時・翌朝の時系列のククゼシ ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※ ククールは慎重に様子をうかがいつつ、口唇を合わせたままそっと、彼女の下腹部で重ね合わせたお互いの指を、濡れた裂け目の中に侵入させた…「―――ッッん!!」急激にもたらされた異物感に、ゼシカは驚いて身体を跳ねさせる。しかしククールの口付けはなにごともないように優しく穏やかに続けられるので、ゼシカはもうどこに気を置けばいいのかわからなくて、混乱するものの抵抗する気力を奪われていく。ククールの指が、器用にゼシカと自分の中指を蠢かせ内側の粘膜を優しく擦ると、腰が自然に浮いた。強くないゆるやかな快感がじわりと沸き上がる。息が上がって、口づけが苦しい。「…気持ちいい?」 口唇の合間でククールが囁くと、ゼシカは息を大きく吸いながら、くたりと頷く。素直なゼシカにククールは微笑むと、口づけを、今度は乳房へと移動させた。「あっ…ん」色づく部分を大きく含んで甘噛みされると、痺れるような快感が走る。感じることに没頭しかけているゼシカを、ククールの低い声がすぐに引き戻した。「ゼシカ…こっち」「…ぇ…?」ずっとゼシカの体内でゆるやかに快感を生み出し続けていた指が、ゼシカのお腹側の性感帯を力をこめて撫であげると、ゼシカは声を上げ、否応なしにそこを意識せざるを得なくなる。自分の信じられない場所に侵入している、いやらしい自分自身の指の存在を。「お前の中、どんな風か教えて?」「…ヤッ、ア、ぁ…あ、…。……………あつ…ぃ…」「…濡れてる?」湿った温度と、からみつく粘液を、指先にじっとりと感じながら、ゼシカは頷く。ククールが、再びゼシカの胸を愛撫しだした。強い力で先端を抓られると、「ひゃ、ぅ…ッ!」全身が跳ね、胸にもたらされたはずの刺激が下半身に襲い来る。瞬間的に飲み込んでいる指が締め付けられたのを感じた。そして新たな体液で指先が濡れたことも。「……きゅ…て、なった…」初めて実感した自分の身体の反応をゼシカはただ素直に口にし、荒い息のままククールをぼんやりと見上げる。ククールは嬉しそうに破顔し、うん、と頷いた。「それが、ゼシカが気持ちいいとオレも気持ちよくなるってこと」「わたしが…きゅってしたら…クク、気持ちいいの…?」「最高に」「……こんなに濡れてるの……、…変じゃ、ない?」「変じゃない。もっと濡らしていいよ。そして、もっとオレを気持ちよくしてくれる?」「うん…」 ククールはゼシカと自分の指をシンクロさせて狭い内側を優しく侵しながら、待ち焦がれるように震える乳房を、空いた手と口で今までよりも若干激しく噛み、揉みしだいた。「あっ、ア…、ククール…ッ、ヤだ…ッ、や、ん…」「指、どんどん締めつけてるの…わかるだろ…?」「アンッ、アッ!ん、ぅん…ッ、……やだ、あっ」「いつもゼシカのココは、オレをこんなにキツく締め付けてるんだぜ…抜かないで、って」身体は官能にゆだねてしまっても、心にわずかに残った羞恥心がククールのあからさまな挑発に反応する。ゼシカが身体を強張らせると、連動するかのように中がきゅううと締まった。「んんん…ッッ、あぁっ、あっ、ヤだ、ヤだぁ、ダメ…!」ゼシカは首を大きく振って乱れた。小さく暴れた拍子にククールに掴まれていた指が離され、自らの体内からズルリと抜け出て力なくシーツに落とされる。ハァハァと息を荒げながら濡れそぼった指先を呆然と見た後、ゼシカは腕を緩慢に持ち上げ、それをククールの口元に近づけた。ククールが優雅にその手を取り、味わうかのように舐めはじめるのを、恍惚とした顔で見つめる。それはどこか、姫君の手甲に誓いの口づけを捧げる騎士のような、ロマンティックな光景にも見えた。騎士はぴちゃりと音を響かせて、姫君が零した 淫らな雫を恭しく舐め取っていく…ゼシカはゾクリと身を震わせた。ただ指を舐めるだけの行為が、このうえなく卑猥に思えて。「…ね、クク…私も、ククールをいっぱい気持ちよくしてあげたいから…だから、…だから、 ―――……もっと私のことも、気持ちよく、して…ほしい…。……私、変なこと言ってる…?」戸惑う瞳がたまらなく愛しく、かわいい。ククールは安心させるように笑い返して、ゆっくりとゼシカに覆いかぶさった。小さくキスして、瞳を合わす。「……仰せのままに」 ※開発未満1※・※開発未満2※・※開発未満3※・※開発未満4※・※開発未満5※・※開発未満6※
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チクッ 不意に下腹部に感じた痛みでゼシカは目を覚ました。 煉獄島に幽閉され二週間が経とうとしたある日のことだった。 「もしかするともしかしてるわね…ひぃふぅみぃ…、やっぱり」計算してみると、間違いなかった。 来ると思っていたが、こうも日付感覚の欠落した場所にいると忘れてしまうのだ。 ふと、月のものをすっかり忘れていた自分がとても怖くなってきた。 このまま少しずつ神経が衰弱して、そのうち自分がアルバート家のゼシカだということも、 ラプソーンを討伐する為に旅をしていることも、ここがどこなのかも認識できなくなるのではないか。 それはありえないけれど、もしかしたらそうなるかもしれない。 ゼシカはどこまでも抜けられない底なしの不安のようなものに襲われていた。 とにかく、月のもの特有の憂鬱な、陰鬱な気分だった。 丁度時間だったようで、遠くから鎖の擦れる音、空気の振動が聞こえる。 少しだけゼシカの寄りかかった柵が振動し、伸ばした足先の水溜りも波紋が広がっている。 「もうこんな時間なのね」今から看守が交代するようだ。 籠の落下と共に少しだけ新鮮な空気が、地底のぬるりと湿った空気と入り混じる。 この牢屋は太陽の光も新鮮な空気も得られない、無条件で得られるはずのものが得られない場所なのである。 (少しだけ、おなか減った…)ゼシカは食事を貰いに行くことにする。 食事は野宿のために用意していた保存食で賄っている。 4人とニノは寝起きの時間を少しずつズラし(ひどい話だが、他の囚人に盗まれないように)食料を見張ることにしていた。 今の時間はククールが番をしている。 目当ての相手は隅で一人座って剣を磨いていた。 「おはよ、ククール」ゼシカは正面に立つ。 「おはよう、起きるのちょっと早いんじゃないか?」ゼシカを見上げてから、手入れを止めククールは道具を傍に置いた。 「目が覚めちゃって…隣いい?」ゼシカがそう言うと、ククールは隣に置いた袋をどける。 「そうそう。これ、今日の食事な」袋から出したのはビスケットだった。 「ありがと」ハンカチでそれを受け止め、隣に腰を下ろした。 「うん?なんか顔色悪いぜ、しっかり食えよ?」怪訝そうな顔でククールが言う。 「ううん、大丈夫だから心配しなくていいわ。ほらぁ、ここって空気悪いから気分悪くなるのよ」 少しだけゼシカは笑い、髪を耳にかける。 「そんなことより!ここに来てからもう二週間になるね」なんとなく話題を誤魔化したようになってしまった。 気が付いただろうか?そう考えると少し頭と腰が重くなってきたような気がする。 「ああ、こうしている間に地上じゃあ何が起きてるやら…心配だぜ、一応だけどな」 すました顔でククールが言った、彼がこういう表情のときは結構真剣である。 ゼシカはふっと自分たちの置かれた状況を哀れむ気分になる。 「うん、どうなっちゃうんだろうね、地上も、私たちも」膝に置いた手で頬杖を付きながら、なんとなく不安になる。 「…それは神のみぞ知るって奴なんじゃないか? 少なくとも俺たちが行動を起こすにも何もきっかけはないしな」たっぷりと間を空けてククールが喋った。 きっかけがなければ何もできない?何を言っているのだろうかこの男は。 そんな受動的な態度に少しイラついてきた。 「確かにそうだけど…、どうしてそんな悠長なの?これは自分たちの事なのよ? いつまでも受身でいたって、私ここは抜けられないと思うけど?!」 「ゼシカ。何怒ってるんだよ、俺が受身なのはいつものことだぜ?」 口元だけ笑い、なだめる様に肩に触れようと手を伸ばす。 「んもう、触んないでよね!」ククールを少し睨む。 ゼシカは避けようと、地面に片手を置き重心を少しずらした。 すると不意にじんじんと痛む。今から本格的な波が襲うことをゼシカは予感した。 「レディーは今日はユウツな気分のようで。こりゃまいったね…」宙に浮いた手を滑らかに引っ込めた。 「んーなあゼシカ、ここ寒くないか?」思いついたようにそう言うと、ククールはマントを外した。 「まあちょっとね」その肩にふわりとマントが掛かる。 「あら…どうも」ククールを一瞥して視線をそらす。 「当然だろ?」ククールは口元で笑って、少しだけ首をかしげる。 「え?」 「具合の悪いレディーに対しては当然だろ、ってこと」少し焦る。 「…いつから気付いてたの?」 「俺は女性の事なら大抵なんでも知ってるんだぜ」茶化すように言った。 「バカ」 「そうだ、温めてあげようか?」 ククールはこの胸に飛び込めと言わんばかりに両手を開く。 「バーカ!」ゼシカは赤い舌を出した。 「大丈夫、何もしねぇよ。かれこれ丸一日近く起きてるし」 「えっ?それほんと」少し驚いた。 「ホントだよ、あのニノのおっちゃんがなかなか起きてくれなくてさ」 ククールが指差した先に、ニノがいびきをかいて寝ている。 「だから寝ずの番してたって訳。ゼシカが早起きしてくれて助かってたんだぜ?」 「そうだったの…」 「俺もう限界だし、寝てる間なら俺で暖とってもいいよってこと」 「まあ、確かに寝てるなら安心だけど…」 ちらりと見たククールの顔は、隅の方で暗いからわからなかったがそれなりに寝不足がにじんでいた。 「それに恒温動物だから寝てるほうが暖かいし」ククールはそう言って唇を曲げる。 ゼシカはくクールの目がとろんとしているのに気付いた。 「アンタ、寝たほうがいいわよ」少しだけ心配になる。 「つうか、ほんと、もうそろそろキツいんだ…ごめん」ククールは目を閉じる。 「うん、おやすみ」ゼシカが言っても、返事は返ってこなかった。 「まったく、無茶して…」とりあえず出しっぱなしの剣を鞘に納め、袋の口もしっかり閉めた。 腰は重たいが、まだなんとか耐えられる。でも立ち続けるのはちょっと… そんなゼシカの目に入ったのは、立膝で座ったまま寝ているククール。 だらりと垂れ下がった手を掴むと、ゼシカの手よりずっと暖かい。 「…ちょっと、本気にしてみようかしらね」少し、ゼシカの喉が鳴る。 両膝の間に収まるように、座り込む。確かにこれなら一人より大分暖かい。 背中の辺りに手が当たるのがちょっとむず痒くて、ゼシカはその邪魔な腕をちょっと持ち上げた。 どこに添えようか考えて、自分のお腹の上で交差することにする。 ククールはよく眠っているようだし、大丈夫だろうと思ったのだ。 それに、痛みは立つのがつらい波に差し掛かっていた所だった。 「痛、うぅ…」ゼシカが小声で呻く。 ニノはまだ起きる気配はない。 「なんで今日はこんなに痛いのかな…あああ」 そういえば昨日ゼシカが眠り始めたとき、まだ彼は起きていたことを思い出す。 「つー」 何度目かの波で、鼻の頭に汗をかいていることに気付く。 ゼシカはそれを手の甲で拭い、姿勢を一度正した。 すると、背中にしていた物がもぞっと動いた。 「…ぁーれ…ゼシカ?何してる…だ…」枯れた声のククール。 ゼシカの体を抱きしめるようになっていた手に、無意識に感覚が集中する。 「え、どうしたこれ」記憶はないが、普段触れることのない細身の腰に両手が掛かっている。 「ちょっと、やっぱり、キツくって」ククールの方を向いた顔は、血色が悪い。 数時間前、眠りの縁に落ちる前の(といっても実は意識は半分朦朧としていたが)顔色よりずっと悪い。 「寒いのよね、さっきから」頬からは血の気が引いている。 「だから俺はこんな状態なんだな、了解」やっと、おぼろげに輪郭が思い出せてきた。 暖を取っていいやらなんやら、ちょっとバカなことを言ったような気がする。 それを本気にしてくれたゼシカは、素直で、ちょっと可愛い。 「手を出したらマダンテ…」ゼシカはリブルアーチのときのように眉間にしわを寄せている。 「わかってらい」 「も一度寝てよ、落ち着かないから…」少し甘えるような声で、ゼシカがささやく。 「わかった、おやすみ」こんな状態で寝られるわけがない。 「ええ、おやすみ…」ゼシカはため息をついて、プイと正面を向いてしまった。 白いうなじが気になるし、手も意識し始めたら途端に動かしたくなってくる。 しかし、動いた途端に培った信用を失うのも惜しい。 するりと動くゼシカの背中も、小さなうめく声も危険だ。 さて、どうしようか。 エイトは目を覚ました。 うつ伏せになるように眠っていて、枕代わりにしていたせいかすこし腕が痛い。 「ん…あれ」腹ばいのまま軽く顔を上げると、ゼシカとククールがくっついている。 「え」そのまま腕立て伏せの要領で上体が起きる。 「あらエイト、おはよう」ゼシカはにっこり笑った。 「おはよう、どうしたの?」エイトは怪訝そうな顔でゼシカの後ろの彼に目を向ける。 「違うの。これはね、この状況だと誤解されるかもしれないけれど、それはエイトの大きな誤解なの。 不可抗力って言うの。これはね、体を許したとかそういうのじゃなくて、別に毛布みたいなものなの。 エイトが考えたようなことではないの。違うのよ。断じて違う」 冷静な声で、早口でゼシカが言い切った。 「あぁ、そうなの…」エイトは唖然としている。 少し嬉しそうに眠っている(ように見えるが実際はどうかわからない)ククールを見つめながら。 ───終幕 イメージイラスト
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本日は過酷な旅の、束の間の休息日。 トロデ王は三角谷へピュア・ギガンデスを嗜みに、エイトは姫様と共にふしぎな泉へ、 ヤンガスは久々にパルミドへ寄り、知り合いに顔を見せに行くという。 「ククールとゼシカはどうする?」 「わたしは部屋でのんびりするわ。おいしい紅茶とお菓子でも買って。読みたい本もあるし」 「そうだな、街でレイピア研ぎに出そうと思ってる。あとは適当にブラブラして、 気が向いたら酒場でも行くかな。ベルガラック戻って久々にカジノ三昧ってのもいいか」 「わかった。ぼくは泉か、泉のおじいさんの家にお邪魔してるから、何かあったらそこに来て」 みなが了解、とうなづく。 では解散じゃ!とのトロデ王の浮き足だったかけ声で、ぞろぞろと動き出す一行。 外に出ようとしたエイトが扉の手前で思い出したように振り返り、 「そうそう。君たち、ケンカしないでね。君たちのケンカは必ず物が壊れるんだから。仲良くね」 にっこり。 ククールとゼシカが唖然としている間に、扉はパタンと閉じられてしまった。 「…やっぱエイトってヤな奴だなぁ」 頭をかきながら、さほど困った風でもなくククールがぼやく。 「なにがよ?私はほんとに今日は、部屋でゆっくり過ごそうと思ってるんだからね」 「オレと?」 「ひっ、ひとりでよっ!!」 「へー。オレにいちにち会えない日なんてそうそうないけど、寂しくて泣いちゃったりしない?」 余裕たっぷりの笑みで、ゼシカの顔をのぞきこむ。 「へ い き ですッ!!」 顔を真っ赤にして肩を怒らせる彼女をクックッと笑いながら、 「OK。まぁどっちにしろ、オレも本当に鍛冶屋には行くつもりだからさ。 …じゃあ今日はここでお別れか。久々の休日、せっかく2人きりで過ごせるのに残念だな」 後半部分をいかにも切なそうに告げると、途端にゼシカの顔がわずかに曇った。 「べ、別に…絶対、離れていたいってわけじゃないけど…」 「ひとりがいいんだろ?」 「そんなこと言ってないじゃない!」 ゼシカが困ったように反論する。計画通りの展開に、ククールはたちまち上機嫌だ。 「じゃあ、用事がすんだら、ゼシカに会いに来ていい?」 ゼシカは照れているのをごまかすために、不機嫌な表情で小さくうなづくしかなかった。 「………何よ。寂しくて泣いちゃうのはククールの方じゃないの」 「正解」 ゆるむ頬を隠しきれず、ククールはゼシカのおでこに、行ってきますのキスをした。 街での用事に思ったより時間がかかり、再びククールがゼシカの部屋の扉をノックしたのは それから何時間も経ってからだった。 「ゼシカ?」 応答が聞こえたような聞こえなかったような。居眠りでもしているのかとそっと扉を開くと、 ゼシカはソファに深く腰掛けて、文庫本を熱心に読みふけっていた。 帰ってきたククールにも反応無しだ。当然不満顔でククールはゼシカの隣に腰かける。 「ただいま」 「…あ、うん」 ただいまに対してあ、うん、はないだろうと、ますます眉間にしわをよせる。 「おい、もう本読むなよ」 「…うん」 「ゼーシーカー」 「…うん、ちょっと待って」 今目が離せないところで…などと呟きながらページをめくるゼシカが何を言っても 聞こえないほど熱中しているのは、いかにも女の子の好きそうなラブロマンス小説。 すぐ傍で、香りさえ伝わる距離にいながら、目線すら交わせないこの状況はなんだ。 どんな焦らしプレイだよ。オレは待てを命じられた犬か。ご主人様には絶対服従か。 大体目の前に本物の君だけの騎士がいるのに、紙の上の王子様の方がいいってのかよ? 本を取り上げることは簡単だが、そうすれば確実にケンカになる。せっかくの2人きりの午後を 台無しにしたくはなかったし、エイトに釘を指されている以上、それは避けたかった。 …となれば? 何気なく本に添えていた右手をふと取られた。 ちらりと視線をやると、ククールがゼシカの指の一本一本を確かめるように触ったり、 爪の先を撫でるようにして遊んでいる。 一瞬上目遣いの視線がこちらを挑むように見つめたが、すぐに伏せられた。 特になにも思わず(それよりも本の続きが気になって)、右手をククールの好きにさせて、 ゼシカは再び本に視線を戻した。 …………途端。 「…ッ、ちょ…」 妙な感触に思わず見返ると、まるで誓いを立てる騎士のように、ククールが ゼシカの手の甲に口付けている。思わず引っ込めようとする手は強く掴まれ、赤らんだ顔で 言葉に詰まるゼシカにおかまいなしで、ククールは何度も何度も口づけを繰り返す。 そのうち手の平を返され、そこにも幾度となくキスを降らせる。 たまりかねてキツく名を呼ぶと、ククールは手の平に口づけたままニヤリと笑った。 その笑みにムッとして、ゼシカはすぐに視線を本に戻す。表情を平静に保ち、 ククールのセクハラまがいの”作戦”を、完璧に無視しようと決めたらしかった。 キスの嵐は指先の全て、爪先のひとつひとつに行き渡っていた。 明らかに情より欲が滲み出ている、熱く狂おしく重ねられ続ける口付け。 湿った口唇と、湿った吐息。手の側面から手首にまでも口唇を辿らせる。 単なる愛おしむ行為を越えて、もはや愛撫といってよかった。そしてそれは完全にわざとだ。 冗談交じりの品のないジョークやスキンシップには目をつり上げて激怒するくせに、 ククールの”本気モード”には、途端に絶対的に逆らえなくなってしまう彼女を知っている。 そしてやはりククールの”本気”に当てられて、怒ることも拒むこともできず硬直してしまったゼシカ。 必死で動揺を隠そうと視線を泳がせ、はやる鼓動を抑えようとするので精一杯で。 「!」 ふいに中指の関節をカリ、と甘噛みされた。 強張っていたゼシカの表情が弱々しいものに変わるのを、ククールは指を口に含んだままじっと見ている。 「…クク…」 漏れ出た艶っぽい呟きをあえて無視し、細い指先をゆっくりと口内にくわえ入れたところで、 ついにゼシカがバサリと本を手許に落とした。 「…………もうやめて。降参」 思いきってククールを振り返り、ゼシカはこれ以上ないくらい赤く染まった顔でそう告げた。 名残惜しむように指先にチュッと口づけると、ようやくゼシカの右手を解放する。 作戦成功。ククールは勝利の笑みを満面に浮かべ、一言。 「かまって♪」 「………もうッ、ほんっっと!」 ゼシカは呆れるしかなくて、でもさっきまでの”本気”の雰囲気なんてもう少しも感じさせない、 子供のように無邪気に笑うククールが可愛く思えて仕方なくて、まだ熱い右手を彼の頬に当てた。 「甘えんぼ!!」 勢いのままにおでこにキス。 ククールが幸せそうに声をあげて笑うので、ゼシカは頬をふくらませてプイと顔を背けた。 「散歩でも行こうか」 「うん」 「どこがいい?」 「どこでもいいわ」 ククールの左手が、今度は優しく、ゼシカの右手を握った。
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868 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/08/05(金) 00 42 32 ID G92JuEYl 「なぜこんなことをした!」 吼えるククールの目をゼシカはじっと見た。 青い虹彩に縁取られた深い穴のような瞳孔はこちらを向いたまま動こうとしない。 「ごめん…なさい」 その冷たい瞳に耐えられず、ゼシカは思わず顔を逸らす。 するとククールはゼシカの顎を掴み、自分の顔の方に向けた。きっちり固定され顔を逸らせなくなる。 「もう一度聞く」 ククールの語調が強まり、怒気が含まれているのが判る。 射られるように強い直視に、ゼシカの汗は引いていく。白い睫が二度三度瞬く。 「どうしてこんなことをした?」 もう目は逸らせそうにない。 「…あなたの、ためだったからよ」 ゼシカは不意に、距離の変わらないはずのククールが遠のいていく気分になる。 視点が崩れ、頭が揺れているような感覚に襲われる。音が、遠い。 870 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/08/05(金) 04 39 12 ID kMXkHEbA 「俺の…ため…?」 耳にざわつく単語を聞いた顔で、ククールが掠れた声を出した。 『こいつは何を言っているのだ?』 それがまず、理解出来なかった。 俺の為にしたというその唇は、青ざめてはいたがみずみずしくて 思わず奪いたくなるほど愛らしい。 …俺が、望むことは『それ』だけだったはずだ。思いやりなど求めちゃいない。望んですらいない。 「…!!」 不意に苦いものがこみ上げてきて、ククールはゼシカを掴んでいた手を離してしまった。 今、『彼女』を側に置いておきたくなかった。 872 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2005/08/05(金) 12 31 29 ID axS7PVBV 不思議な泉周辺で野営をしていた一行はゼシカの姿が見えないというエイトの言葉で目を覚まし、手分けしてゼシカを探していた。 そしてついさっき、崖から落ちて倒れているゼシカをククールが発見したのだった。 幸い下が柔らかい草だったので大きなケガはなく、ククールのべホイミで完全に回復したが、そんなところを魔物に襲われていたら一たまりもなかっただろう。 「これだけは言っておく。二度とこんなマネするな・・・どれだけ心配したと思ってるんだ・・・」 その言葉に込められた苦悩にゼシカも思わず叫ぶ。 「私だって、あなたが心配なのよ!」 ゼシカは続ける。敵の攻撃を受けても、ククールはいつも仲間の回復を優先し、自分自身は後回しだ。回復手段を持たないゼシカにはそれが苦しかった。 「せめて、一つでも多く薬草をって・・・」 薬草を探すために一人で危険な夜道を歩き回っていたのだと言う。 「・・・怒鳴って、悪かった」 ククールの胸の内は複雑だった。 875 868[sage]2005/08/05(金) 22 37 38 ID 4OX4sqgQ 「私もほんとに、ほんとにごめん。もう…危ないことしないから」 「いい、わかった、俺も悪かった」 二人はしばし沈黙した。 だがククールとゼシカの複雑な思いをよそに、時間だけは過ぎようとする。 「…戻ろ、エイトもヤンガスも心配してる」 歩き出し、遠慮がちにこちらを見るゼシカの表情が辛かった。 気づけば暁も消え去り、暗く静かな夜だった。先ほどから無言で二人は歩いている。 足元がふらふらするのは、果たして打身の痛みだけだろうか?ゼシカはククールの一喝に痺れたような感覚を覚えていた。 腰の袋に詰め込まれた薬草も、この痛みは癒せないかしらね、とぼんやり考えながら黒い木立を見つめる。 「行くなよ」 不意にククールが言った。 「え?」 ゼシカは立ち止まる。 「もう一人で…行くなよ」 ゼシカが振り返ると、腕組をしたククールが立っている。 その表情は先ほどまでの険しさは微塵も感じない、穏やかだが限りなく無に近い表情だった。 「俺のためとか言われても、お前が怪我したらシャレになんねぇし…その」 じっとゼシカの目を見た。 「青ざめたゼシカなんて呪われてる間だけで十分だし、なんつーの? 決して嬉しくないわけじゃないけど、心配してもらってありがたいけど、…俺なんかのためにもういいよ」 「やめてよ、そういう顔するの」 ゼシカの前に立つククールは、穏やかだが悲しそうな顔をしている。 「私のお節介がいけなかったって思ってる…でももうそんなこと言わないで?」 ゼシカの胸で悲しみが湧き起こる。 「いつもそんな風に一人で諦めたようにして、自分は捨て鉢みたいなくせにみんなばっかり心配して、 見てて苦しくなるの。だから、だから…」 ゼシカは俯いて、泣いてしまった。 876 868[sage]2005/08/05(金) 22 39 38 ID 4OX4sqgQ 「…俺、あなたのためとか言われたことなかったんだ」 ポツリとククールは言った。 「ゼシカを心配してたのに何言ってんだかわかんなくて、理解が追っつかなくて、混乱した。 俺が心配するのは慣れてる。でも思いやられるとか、慣れてないんだ。 いつもみたいに軽口も叩けない。なあ、俺どうすればいい? 俺のために何かしてくれるゼシカになんて言ったらいい?」 「ククール」 うつろにこちらをみるククールがゼシカには泣きそうに見えた。 「薬草ありがとう、ほんとにありがとう。ゼシカにお礼まだ言ってなかった」 手袋を外して、ゼシカの涙をぬぐった。だが、荒れる気持ちは一向に収まらなかった。
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「ゼシカ…ゼシカ…ッ、ごめん、ごめんな…!」「く、く…? ……――――ッッ!!!!」痛みと熱にに浮かされたゼシカの意識は、突然スカートの中に忍んできた手の感触に急激に我に返った。「い、やよ…っ!!なにしてんのよ、バ、カ…ッッ」押しとどめようにもケガのせいで腕に力が入らない。無理やり動かした傷から血が吹き出す。「動くな!頼む、これ以上出血するとまずい…」「だ…っ!じゃあ、やめてよ…っ!アンタってこんな時に、最低…っ!!」「頼むから、よけいな抵抗しないでくれ…頼むから…」苦しげな顔で懇願するククールに戸惑い、わけがわからないまま強引に押し付けられる口唇に目を見開くものの、ゼシカはろくな反撃もできない。「…っん、は…っ、……やだ、やめて…」かろうじて絞り出された声はすでに震えていた。今やいつものように燃やすことも殴ることもできない状況で、いつもの軽薄な様子とはまるで違う表情で組み敷いた自分を見下ろすククールに、ゼシカは本能的に恐怖を覚えた。ククールが何かを決意している。動けない私の意思を無視して、何かをしようとしている。考えたくなかったが、それが何かわからないほどゼシカは幼くなかった。太ももを上へ上へと這い上がってくる手の平は、その残酷な答えを如実にゼシカに突きつける。ククールの舌が耳の裏を舐め、そこからぬるぬると蛇線を描いて首筋をたどり、鎖骨や肩を甘噛みした。くすぐったさで、ゼシカの身体が無意識にピクリと反応する。ゼシカがいちばん反応を示した首筋の縦のラインを、再びククールの舌が上下に這い時折強く吸うと、彼女のキツく噛みしめられた口唇から呻くような声が漏れた。そこに意識を取られている間に、ククールの片手が上着をずり下げてゼシカの胸を揉み始める。先端ばかりを色んな角度で優しく抓り、彼の大きな手の平にさえ余るほどの大きさの乳房を波立たせるように揉み、絞り上げる。ゼシカの身体が何かをこらえるように何度も跳ねた。「…っ、く、ぅ…っ」「ゼシカ、今はなんにも考えないで素直に感じて。頼む」「…はぁ、っ、いや、よ、バカ…やめて、クク…ッ」ククールは焼き尽くさんばかりの非難の視線を無視した。スカートの中、足の付け根で留まっていた手の平を動かし、指先を下着の中に滑り込ませる。驚いたゼシカの腕が咄嗟にそれを押しのけようとしたが、ククールの方が早い。ゼシカが言葉もなく暴れた。しかし傷つき力のない抵抗などないも同然だ。片腕で彼女の肩を押さえつけ、口唇と舌で緊張に硬くなっている胸の先を弄り、残った片手は完全なる未開拓地である処女の秘部を犯そうとしている。――――これは強姦以外のなにものでもない。犯す者も犯される者も、この瞬間、同時にそう考えていた。 経験のないゼシカにはククールのしている行為の意味などわかるわけもなかったが、ただ闇雲にゼシカの身体を弄ぼうとしているわけではないと、処女でなければ気づいたかもしれない。ククールはゼシカの性感帯を探り、少しでも彼女を感じさせようと必死になっていた。ただ感じさせるだけならば、例え処女であろうがククールにとってそれはたいした苦ではなかっただろう。しかし今は、優しく卑猥な愛撫でゆっくりと楽しみながら前戯をする、そんな余裕も時間も皆無だった。限られた時間の中でできうる限りゼシカを気持ちよくさせ、濡らしておいてやりたい。「大切に抱く」行為とは程遠い、性急になるばかり。それでもククールはそれを実行するしかなかった。あとで心の底から憎まれてもかまわない。二度とあの笑顔を見られなくなったとしても。ゼシカを絶対に死なせない。騎士でも、僧侶としてでもなく、彼女に惚れた男として、誓った。下半身の最も敏感な突起をとにかくなぶり、はじめての衝撃に彼女が支配されている間に指を侵入させた。わずかに委縮する内部を、強引に広げる。ここだろうと思う場所を強く擦ると、ビクンと腰が浮く。あとは、ゼシカの体中に見つけ出した性感帯を刺激し続け、溢れ出した蜜を使って指の数を増やし限界まで奥を探り、狭いそこを少しでもこじ開けることに専念した。ゼシカの噛みしめられた口唇に指を差し入れると、熱い吐息と煮つまった喘ぎがこぼれ出た。可愛い、甲高い、甘ったるい声に、ククールは陶酔したようにゼシカに口づける。もう、抵抗される気配もない。傷と痛みに侵された精神は、さらに強引に目覚めさせられた性的な快感に堕ちかけ、ゼシカの思考回路をほとんど麻痺させていた。「あっ、あっ、ん…っ、あぁ……っ」「ゼシカ…そのまま…オレのことだけ考えて…頭真っ白にして…」「…ヤ、……あっ、…く、ククー…ル、あっ…」―――しかしゼシカの強い意志の力は、背徳に溺れかけている自分自身と目の前の男をどうしても許せなかった。ふいに、逃れるように身体をねじらせ、精一杯ククールから顔を背ける。「……ッ!ダメ、いや、だめ…っ」「…ゼシカ」「だめ…クク…おねが…」ククールはゼシカの瞳から唐突に溢れ出した涙を、呆然と見下ろした。自由に動かない身体を震わせ快感に喘ぎながらも、なお正しさと過ちを捨てない、その強さ。その瞳の光に、一瞬で魅せられたククールの腕が、無意識にゼシカの足を持ち上げる。「―――-ッ!!イ、イヤッ!!おねがい!!ククール!!」「…ゼシカ、ごめん。………これしか方法がないんだ」たいして準備が整ったとは言えないまだまだ固く未熟なそこに、躊躇なくあてがわれる灼熱の塊。ゼシカの蒼白な顔を間近に見ながら、それでもククールは先端を押し入れるのを止められなかった。「く、アアッ…!ダメよ…っ、わたし、たち、…っ、…こんな…こんな」「ごめん、…我慢して…頼む…!」「待って!!!おねがい!!!ダメこんな…ッッ……――――!!!!」声にならない悲痛な叫びが響き、ククールは自分がゼシカの処女を奪ったことをはっきりと感じた。そしてお互いの身体の内側から回復呪文が広がっていく。見る間にゼシカの傷が癒えていく。 「ヤダ、痛…っ痛い、やだ…!おねがい…やめて…っ!!」「…ッ、ゼシカ…あとでオレを殺して…」本気でそう言った。それと引き換えにできるくらいに、甘美な瞬間だった。ククールの中のもう一人の自分が嘲笑った―――“回復なんてタテマエのくせに”「これしか方法がないんだ」…?なんて都合のいい免罪符があったものだろう。所詮そういうことだ。同情や悔恨の念があるなら、例え義務だってこんなに勃たない。本当にゼシカの身を案じるなら、すでに命に別状はなくなったこの瞬間にも、彼女の最奥に無理やり捩じ込んでいるこの欲望の楔を抜けばいいのだ。それができないのは。―――――オレは自分がゼシカの最初の男になれたことに、心の底から歓喜している――――身体を起こし、ゼシカを膝に乗せて正面から力の限りに抱きしめた。浅く苦しそうな息が耳元に聞こえ、ククールはしばらくそのままで一ミリも動かないでいた。お互い中途半端に身につけたままの衣服が、性急な行為を物語っている。ククールは自身も次第に早くなる呼吸を抑え、ゼシカの汗ばんだ肩に噛みつきながら、囁く。「―――……好きだゼシカ………」ゼシカは朦朧とする意識の中で、それを聞いた。遠ざかる思考の片隅で、こんな悪い夢は、もうすぐ終わると思った。 **
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ああ、何かこんな話、修道院で暮らしてた『頃、誰かに聞いたっけなぁ』 ドニの町で仲良くなった女の子が話していたおとぎ話。 茨に囲まれ静まりかえった城。その中には呪いにかけられたお姫様。勇敢な王子様は、お姫様を救うために茨を掻き分け奥へと進む。 『ククールも、あたしが呪いにかけられたら、そうやって助けに来てくれる?』 返事は『アホらしい』とは言うわけなく『もちろんさ、ハニー』 その時はとにかく眠りたかったから、そうやって適当に答えたのだ。 別にククールは、そう言った彼女のことを『アホらしい』と思ったわけではなかった。女の子がそういうものに憧れる気持ちがわからないような、ヤボな男はモテない。 『アホらしい』と思ったのは、そんな話を考えた人間の方だった。 『顔も見たことないお姫様の為に呪われた城に飛び込む奴がいるかっての。それも何不自由無く城で育った王子様が? 無理だね。っていうか、そういうことするなよ王子。お前に何かあったら国民どうすんだよ』 という感じで、寝ぼけ半分で聞いていた割に、心の中でツッコミまくっていたのだ。 だが、そんなおとぎ話に、ちょっとだけ似たような話はすぐ身近にあった。茨に覆われた城に、呪われたお姫様。 大きく違ったのは、姫様はただ眠って助けを待つだけではなく、馬にされても馬車を引く根性があり、姫様を救ったのはどこかの城の王子様ではなく、姫様の幼馴染の一兵士だったということ。 ククールはその二人の行く先を心配していた。 呪いの解けたお姫様には、生まれる前からの婚約者がいた。 それも、性根が腐っているとしか思えないどうしようもない王子。 トロデ王がミーティア姫を溺愛しているのは承知しているが、国同士で決めた約束事。簡単に破棄してしまえるとも思えない。 いざという時には、自分が一肌脱ぐしかないと考えていた。 城の3階のミーティア姫の部屋。 ゼシカは激しい自己嫌悪に苛まれていた。 魔法を人に向けて撃ってしまったことだ。 もちろん当てるつもりは無かったし、実際に寸分違わず狙った所に命中した。 でも、そんなことは言い訳にならない。 魔力が低かった旅の序盤ならともかく、今の自分の魔法は、たとえメラでも洒落にならないことは自覚していた。 確かにククールの、節操無しに、いつでもどこでも女の子を口説こうとするクセはどうにかしてほしいと思ってはいたが、メラはやりすぎだったと思う。 せっかく呪いの解けた城に、小さいながらも焼け焦げを作ってしまった。 何より辛いのが、誰もゼシカの行為を責めようとしないことだった。 エイトも、ヤンガスも、トロデ王やミーティア姫にいたるまでが『ククールが悪い』と言う。 叱ってくれれば少しは気持ちが楽になるのに、気味が悪いほど優しくされてしまい、ゼシカにとっては逆に針のムシロだった。 頭を冷やすために一人になりたいと言えば、『私の部屋をお使いください』とミーティア姫に申し出られてしまう。 せっかくだったので好意に甘えたが、城の中は妙に静まりかえっていて落ち着かない。 ベッドに横になり考える。どうしてあんなことをしてしまったのか。 懲らしめるため? もちろんそうだ。でもやりすぎだ。 それに、暗黒神を倒す旅は終わったのだ。オディロ院長の仇を討ち、ククールは晴れて自由の身になった。その行動を束縛する権利は誰にもない。 それなのに、一瞬で頭に血がのぼってしまい、気がついたらメラの炎は手を離れていた。 眠るつもりではなかったのに、横になっていると強烈な眠気が襲ってきた。 勝利した喜びで忘れていたが、ラプソーンと戦ってから数時間しか経っていない。疲れがとれていないのだ。 『ダメ・・・。こんな気分で眠ったら、またあの夢・・・』 睡魔に抗うことが出来ず、ゼシカは暗い眠りの中に落ちていった。 ククールがミーティア姫の部屋に辿り着いた時には、先刻飲んだワインが大分回ってきていた。 『おかしいな、大して飲んだつもりじゃないはずだけど・・・』 戦い終わってすぐに、まともな食事も取らずに酒だけ飲めば回りが早くて当たり前だが、ククールはその事に気付かない。 誰もいない城の威圧感が、感覚を狂わせているのだろうと思ってしまう。 「ゼシカ?」 扉をノックしても返事はない。 「入るぞ?」 やはり返事がないので扉を開けて中へ入る。 そこはピアノ室だった。さすが大国の姫君。そういえば続き部屋だったっけと、ククールはぼんやり思い出す。 壁には優しい色使いの数点の絵画。ピアノにかけられているカバーには皺一つ寄っていない。真っ白なテーブルクロス。切りたての花が飾られている花瓶。 これはミーティア姫が、城の者達に宝物のように愛されている証拠であった。 他の何を後回しにしても、苦難の旅を乗り越えた姫様に綺麗な部屋でくつろいでもらいたい、と思う者が多く、真っ先にこの部屋が整えられたのだ。 この部屋に来る途中、いくつもの瓦礫の残骸を回避してきたククールは、一瞬、別世界に迷い込んできたような錯覚に陥る。 頭がボーッとして、ノックをすることも忘れ、寝室のドアを開け中に足を踏み入れる。 それはまるでおとぎ話の世界を切り取ったような光景だった。 音一つ無い静かな空間。全てが美しく整えられた部屋。部屋の奥には天蓋付きの寝台。 そしてそこには眠れる美女・・・。 『出来すぎだ。何か騙されてるんじゃないか? オレ』 ゼシカのメラも、『お前が悪い』という仲間たちも、ちょっとしたイタズラか何かで。それでなければ、夢でも見ているのかもしれない。 「う、ん・・・」 静寂を破ったのは、ゼシカの声だった。 「もう、イヤ・・やめ、て・・・」 「ゼシカ?」 ククールは慌ててベッドのそばに駆け寄り、ゼシカの顔をのぞき込む。 ゼシカはひどくうなされていた。 杖の魔力に操られていた頃の夢を見るのだと、ゼシカが打ち明けてくれたのは、聖地ゴルドが崩壊した夜のことだった。 眠れずにいたククールは、その夜も悪夢にうなされていたゼシカに気付き、様子の違いから異常を察して無理やり問いただしたのだった。 『ラプソーンを倒しても、まだ解放されないのか・・・』 とりあえず起こしてやろうと、ゼシカの肩に手をかける。 が、そこでククールの身体は魔法にかけられたように動けなくなる。 折れてしまいそうに華奢な肩が。情熱的な紅い髪が。首筋で光る汗が。しかめられた眉間や苦しげな吐息までもが。 ゼシカの全てがククールの意識と身体の自由を奪っていく。 『それでね、お姫様にかけられていた呪いは、王子様の熱~いキッスで解けたんだって』 ドニの宿屋で聞いた話が、何故か急に頭に浮かぶ。 見えない糸に引き寄せられるように静かにゆっくりと、ククールはゼシカに唇を重ねた。 「信じらんねぇ・・・」 我に返ったククールは激しい自己嫌悪に苛まれていた。 眠っている、それも、悪夢にうなされている女の子の唇を奪ってしまうなど、騎士にあるまじき卑劣な行為だ。 貞淑に生きてきたとは御世辞にも言えないククールだったが、それらは全て合意の上のことで、基本的に女性の嫌がることはしてきていないつもりだった。 何かの間違いだと思いたいが、ゼシカの唇の感触が消えてくれない。 柔らかく、少し冷たく、そして甘い・・・。 「ククール?」 目を覚ましたゼシカに呼びかけられ、ククールは跳び上がらんばかりにビックリする。 「ゼ、ゼシカ」 「あのね、ククール、さっきは・・・」 メラ投げつけてゴメン、そう続くはずの言葉が、ククールの声にかき消される。 「ゼシカ! ごめん!」 「な、何?」 「ゴメン、ほんとゴメン、とにかくゴメン、心から反省してる。もう絶対しないから許してください」 『一体何したわけ?』と、問われるのをククールは待った。 今まで積み重ねてきた信用が台無しになるのは残念だが、正直に打ち明けるのがせめてもの誠意だと思った。 だが、ゼシカからは何の反応もない。よく見るとベッドに腰かけたまま、俯き加減で顔が紅潮している。手はモジモジと、スカートのすそをいじっていた。 「ゼシカ? そういえばうなされてたけど、またあの夢見てたのか?」 ククールが膝を付いてゼシカの顔をのぞき込むと、ゼシカは飛び跳ねるように後ずさり、ククールに背中を向けた。 「だ、大丈夫、ラプソーンに勝ったおかげかしら、最後がいつもと違ってたから・・・」「どんなふうに?」 「・・・忘れちゃった・・・」 ゼシカが目を上げると、鏡には真っ赤に染まった自分の顔。恥ずかしくて、手で顔を覆いまた俯く。 『お姫様は王子様のキスで呪いから解き放たれました』 まるで子供の頃に聞かせてもらったおとぎ話のように・・・。 今、夢の中でゼシカを呪いから救ってくれたのは、背の高い、銀髪碧眼の王子様のキスだったとは、とても言えるわけがなかった。 (終)
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お騒がせ兄妹の護衛をなんとか終え、ベルガラックのカジノが華やかに再開したあとのこと。「実際アッシらがいなかったら、フォーグもユッケも竜骨の迷宮で行き倒れてたかもしれねえでげすよ」「もしそうなったら跡取りが亡くなったってことで今ごろカジノは人手に渡ってたかもしれないわね…」ヤンガスの言葉にゼシカは頷いて、事態が丸くおさまって本当によかった、と胸をなで下ろした。しかしそこに水を差してきたのはククールだ。ふんと鼻で笑って肩をすくめ、「…その方がよかったんじゃねーの?この先兄妹ゲンカが起こるたびに カジノが閉鎖したら、客もいい迷惑だろ」ゼシカは一瞬目を丸くして、それから はあっ、とわざとらしいため息をついた。「それがあなたの本心じゃないくせに、わざと冷たく突き放したことを言ってカッコつけるのはよしなさいって」思わずこぼれたゼシカのツッコミに、ククールはぎょっとして、珍しく動揺を顔に張り付けた。「うっ うるせーな!」「よかったじゃない。兄妹は仲直り、カジノも無事復活。素直に喜んでおきなさいよ」「…うるせぇっつーの」ククールはろくに言い返しもできず、不機嫌に背中を向けて先に行ってしまった。その後ろ姿に、残った仲間たちは顔を見合わせてクスリと笑うのだった。 *「…か・わ・い・く・ねえぇぇええーー」「あはは」酒場でグラスをテーブルに叩きつけたククールに、爽やかな笑いを返すのはエイトだ。「何がおかしい」「あ、ごめん」そう言いつつあっはっはっはと声をあげて笑うエイト。ククールは頬をひきつらせるが、無視を決め込んでひとり言のように呟いた。「かわいくねぇ。あんなにかわいくない女マジではじめてだぜ。ムカつく」「ほぅほぅ」「あんな顔してよーギャップありすぎんだろ。黙ってればいいのに口開くとアレだよ。何様よ。言いたいこと言いやがって。あー腹立つ。カワイクねぇ」「ふんふん」「おまけに魔法は最強でムチはつぇえし胸はアレだしケツもアレだしなんなのアイツ」「くっくっく」怒り心頭のククールに対して、何がおかしいのかエイトは終始ニコニコニヤニヤしている。「おい気持ち悪く笑ってねぇで。なぁ、お前だって思うだろ?」「なにが?」「アイツ、ホントに可愛げがないったらありゃしねぇ。史上最強にかわいくない女だよ」「ゼシカはかわいいよ」「はぁ?どこが」「ククールもかわいいけど」「…きめぇ」「あははは」げんなりしたククールが、ブツブツ言いながらも愚痴をおさめて飲むに徹したので、お互いしばらく無言で酒やつまみを消化していた。「―――…あんなにかわいい女はじめてだよ。おかげで退屈しないで済みそうだ」やがてエイトが微笑みを浮かべたままポツリと言葉をおとしたので、ククールはぎょっとした。「…なんだって?」「美人だし身体はエロいし、なんと言ってもあの気の強さがたまらない」「…エイト?」「それにオレを見る時のあの目ときたら!精一杯の抵抗と虚勢はわかるけど、オレに惹かれてるのは隠しようがないらしい。そのくせ触れられるのは許さない」「……おい」「あの顔とあの幼稚さに対してあのボディというギャップが、どうしようもなくそそる。一日中からかってても飽きないね。怒らせた顔がまた極上にかわいいのさ」「…………。」「かわいいね、ホント。さすがのオレも、あんなに可愛い女はじめてだよ。 どうにかしてやりたくなる。最高にかわいい。―――史上最強に、かわいい」「………………………………。」いまやククールは絶句していた。非常に嫌な予感に襲われたからである。限りなく聞き覚えのある言葉の羅列…エイトがにっこり笑って、悪びれなく言った。「仲間になったばかりの頃のククールのセリフだよ」確かに、覚えはある。聞き覚えではなく、言った覚えが。「……~~お前……」「いやー、なんとなく思いだしただけなんだけどね」ぼく記憶力いいんだよねーなどと嘯くエイトは確実に確信犯だ。「あの頃はさっきみたいに、ゼシカのこと毎日毎日かわいいかわいいって言ってかまってかまってからかってからかって燃やされて、へらへらへらへらしてたなぁ、と思って」「…あのな…」「そのククールがいまや“あんな可愛くない女見たことない”だもんね。いやぁ、人間変わるもんだよね」「うるっせぇぞエイト!!!!」頭を抱えたククールが悔し紛れに怒鳴っても、エイトにはのれんに腕押しである。「不思議なのは、あの頃より今の方が、断然君たちの仲がいいように見えるってことかな」困ったようにわざとらしく首をかしげ、両手を広げてククールに問いかけた。「“かわいくない”のに、どうしてだろうね?」爽やかなのかふてぶてしいのか、掴みどころのない笑顔はもはやエイトの特技だ。ククールが苦虫を噛み潰したような顔でエイトを睨む。頬がわずかに赤いのは、酒のせいのはずだ。「…………お前はホンットにかわいくねぇ」「ククールはかわいいけどね」「死ねッ」 *「ククール!」エイトに勘定を押し付けて酒場から一人帰る途中、聞き慣れた声がしてイヤイヤながら後ろを振り向いた。思った通り、そこには胸元を魅力的に揺らしながら走ってくるツインテール。「…お前な…夜になったら一人で出歩くなって何度…」「どこにいたのよ?まぁいいわ、ちょっと付きあって」「聞けよ」酒場での色々なアレのせいで、彼女の顔をまともに見られないククールのいつもより弱々しい小言など完全にスル―して、ゼシカは彼の腕に手を回して強引に引っ張った。「なんだよ、酒場ならもう行かねぇぞ」「違うわよ。連れてって」「どこに」連れてってと言いながらスタスタ進むゼシカに、ククールは怪訝な顔を向ける。ゼシカは子供のように無邪気に、満面の笑みを浮かべて夜空に浮かぶネオンを指さした。「カジノ」再開したばかりのカジノに浮足立っているのは住人ばかりじゃない。そのうち情報が行き渡れば、他の町や地方からも待ちかねた客が大挙して押し寄せるだろう。本格的に混む前に、一通りめいっぱい遊んでおきたいの、とワクワクするゼシカ。「ヤンガスに言われたの、一人では絶対行くなって。だからあなたを探してたのよ」「ヤンガスと行けばよかったんじゃねーの?」ククールはぶっきらぼうに答える。「ダメよ。本人も言ってた、自分は賭けごとに向いてないって。エイトも経験ないって言ってたから、どうせなら詳しいククールと行った方が絶対楽しめるじゃない」「詳しいねぇ。どうせイカサマは禁止なんだろ?」「当たり前でしょ!もしバレたら、あの兄妹に何言われるかわかったもんじゃないわよ」「再開したのは半分オレ達のおかげなのに、結局カジノで金落としてるんじゃ、オレらは貧乏くじで、アイツらは完全においしいとこ取りだな」「それをなるべく落とさないために、あなたを連れてくのよ」相手が付いてきてくれるとカケラも疑っていないその様子が、なんとなく面白くない。無理やりに立ち止まって腕を振り解き、不思議そうな表情で振り返るゼシカに、言ってやった。「……正直、もう眠いし、風呂入りたいし、メンドクサイんだけど」本当は、どんな理由であれ自分を選んでくれたのが嬉しいし、これから楽しいデートをできるのが間違いない状況に、心躍らないわけがない。だから精一杯の仏頂面で、精一杯の虚勢で、精一杯の抵抗をしてみる。ゼシカは心底驚いた顔でまじまじとククールを見つめていたが、しばらくしてふいに眉尻を下げ、小さな声で言った。「…そうなの…ごめん、私、浮かれちゃって」垂れ下るツインテールに、こみあげる罪悪感がククールをじりっと苦しめる。もうすでに後悔している。…早すぎないか、自分。「えっと…じゃあ、とりあえず一人で行ってみる、ね。大丈夫チラッと見てくるだけにするから。ヤンガスには内緒にし…」「いや待て。一人でだけは行かせない」「だって」ゼシカの細い腕を掴むと、戸惑いに満ちた瞳がククールを見上げる。いつもなら絶対に見られない、不安に揺れる弱々しい表情。ゼシカが再びククールの腕に腕をからませ、控え目ながらそっと寄り添ってきた。彼女の豊かすぎる胸がククールの腕に押し付けられる。見上げてくる潤んだ瞳。「…お願い、一緒にきて?……ククールじゃないと、ダメなの」…………………………くそぅ…かわいい…っククールが心の中でそう思ってしまったのは、敗北宣言に等しかった。上機嫌でカジノに向かって進んでいく少女と、腕を取られ、半ば惰性のように付いていく青年。「…ゼシカさん。…胸、当たってますけど」ククールは遠い目をして半笑いだ。一方のゼシカはクスッと微笑み、「おいろけスキルも、役に立つでしょ」付いてきてくれるわよね?と、大変キュートにウィンクをして見せるのだった。ククールは複雑な笑みと、諦観に満ちたため息を同時に吐きだす。もちろん。お望み通り、華麗にエスコートいたしますよ、お嬢様。オレは君の騎士だから。いつの間に、こんなに勝てなくなっていたのだろう、と思う。いまやすっかりおいろけスキルを使いこなす、こんな危険な小悪魔に。ウブな彼女を翻弄して楽しんでいたのは、そう昔のことでもないというのに。「…かわいくない」「なんですって?」「なんでもないです」満足げによし、と頷く彼女は、やっぱりどうしようもなく可愛くない。…わけがない。かわいいかわいいと連呼していたあの頃より、今の方がよっぽど愛しく感じているのはなぜだろう。勝てなくて、ムカつくのに、腹が立つのに、それが彼女と自分の距離の近さの証明なのだとわかっているから、悔しいような、でもそれだけじゃない、くすぐったいような胸の内。目前に巨大なカジノが近づいてきた。煌びやかなネオンに、否応なしにテンションが上がる。「わーすっごーい!間近で見ると全然迫力がちがうのね!!このネオン素敵!!」ククールの腕にしがみついたまま、ゼシカはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。ククールはふんと鼻を鳴らし、皮肉な笑みを浮かべる。「どいつもこいつもこの灯りに惹かれて集まり、有り金と魂を吸い取られるわけだ。飛んで火にいるなんとやら、そのまんまだな。なんとも滑稽だぜ」ゼシカはその様子をじぃっと見上げ、それから、はあっとわざとらしいため息をついた。「…それがあなたの本心じゃないくせに、わざと冷めてるフリして、かっこつけるのはよしなさいって」「―――うっ、うるせーな!!!!!」「ほんっと、ククールってかわいいんだから」「かわいくねぇっつってんだろ!!!!!」思わず声を張り上げてしまった時点で、図星であることを露呈してしまっているわけで。ゼシカはクスクス笑い続け、ふてくされたククールが「やっぱやめる」ときびすを返すのを、ゼシカの腕が自然に掴まえた。見上げてきた彼女の笑顔には、ただ純粋な好意があるだけで、思わず脱力してしまう。ククールの決まり悪そうな表情など気にもせず、ゼシカは大きな扉に手をかけた。「カジノ好きなんでしょ?」「…。」まだブスッとしている彼に、ゼシカは屈託なく笑いかける。「一緒にめいっぱい楽しもうね、ククール」子供のようにはしゃぐその表情に、ククールは次第、色々なことがバカらしくなってしまった。つまらない意地や矜持など、彼女の前ではなんの役にも立たないのだ。「…あぁ」あきらめて笑い返すと、彼女はククールの腕を掴む手にぎゅっと力をこめ、嬉しそうに見上げてくるのだった。かわいかろうが、かわいくなかろうが。オレはきっと永遠に、ゼシカには勝てないのだろう。輝かしい勝利だけを求め遊びに興じる人々の中で、ククールはそんな風に確信して、一人笑った。
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DQⅨ Ⅸに登場するコスプレ装備の一つ。 DQⅧに登場する【ククール】が身につけている服。 性別・職業を問わず誰でも装備することができる。
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季節は夏、それはバカンスである。 鏡の前に無防備に座ったゼシカは、その両手にそれぞれ色違いの小さな布キレを持っていた。 それはよく見ると、紐やらレースやらが付いている水着だということがわかる。 彼女は鏡にそれを宛がったり、覗き込んだり、真剣な顔つきで審美しているようだ。 そこでノックの音がするが、ゼシカは全く気が付かない。 「うっす、もう着替えたか?」 ノックから少し経ってククールが扉を開けて入ってきた。ゼシカに用事があるらしい。 「それがまだなのよ」 彼女はククールが部屋に入ってきてから一度も鏡から目をそらしていない。 「そうか、手が空いてたら日焼け止め塗ってもらおうと思ったんだ。ほら、オレの美しい身体が焼けたら困るだろ?」 「んーどっちにしよう…」 彼女はまだ吟味しているようで、その言葉はすっかり耳に届いていないようだ。 「水着が決まらないのか」 無視に耐えかねゼシカの顔をひょいと覗き込むと、ククールはその手から水着をすっと抜いた。 もう!と抗議の声が聞こえるが、曖昧に返しておく。 「どうかな、スポーツ系の可愛いのと、ちっちゃい感じのビキニなんだけど」 どうやらコメントを求めているようだ。 「どっちがスポーツでどっちがちっちゃいんだ??」 ククールもいくら女性に詳しくてもこの見分けは付かなかった。 「紐が付いてるのがビキニの方なの」 ゼシカはククールの右手に下がっていた黒い布を引く。 正直、露出が高ければ高いほど嬉しいのだが。この両者には布の面積に差異はなさそうだ。 どんな格好で泳いで欲しいだろうか。彼はそれを考えて結論を導き出そうとする。数秒経つ。 「そうだな………髪ブラか手ブラなんてどうかな」 ククールは布を手から下げつつ真面目な顔で言った。 「か…みぶら…? こっ、この馬鹿男お!!!」 肩を強かに打たれたククールは少しよろめく。 「あーもう早く決めないと日が暮れるぅ~」 どうやら癖のようだが、ゼシカは頭を抱えるとき結った髪の付け根を掴む。 そのまま頭を揺らす動作は子供っぽくてかわいいなあ、とぼんやり見ているククールだった。 それはバカンス、そしてロマンスである。
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クラビウス王が公式にエイトをミーティア姫の許嫁だと認め、チャゴス王子との婚約が白紙となった段階で、近衛隊長のエイトがトロデーン王家に婿入りするであろう事は公然の事実として世に広まっていた。 しかし、そこから先に話は進んではいなかった。 当のエイトが、婚儀を執り行うには時期尚早であろうとトロデ王に進言をしたのである。 自分はサザンビーク王家の血を引く者であっても、その王子として育ってきたわけではない。 なりゆきで近衛隊長の肩書きを戴きはしたが、茨の呪いで時を止められていたトロデーン国民にこの昇格は青天の霹靂であろうし、どうあれ自分は一介の家臣にすぎない。 王位継承者たるミーティア姫の夫となるには、世間の誰もが認める「何か」が必要でありましょう、と。 「おぬしは…暗黒神を滅した英雄、というだけでは物足りないと申すか?」 トロデ王の問いにエイトは頷き、話を続けた。 「竜神族の里に参りました折に、竜の試練なるものがあると聞き及びました。つきましては、仲間と共にその試練に挑みたく存じます」 「なるほどのぅ」 「竜の試練を完遂致しました暁には、国王陛下と内親王殿下のもとに改めてご挨拶に伺わせていただきます」 こうして、暗黒神を倒した後も四人の英雄達は、竜の試練の為に日を決めてトロデーン城へと集う事になっていた。 「ミーティア姫も色々と振り回されて大変よね」 ゼシカはミーティア姫の部屋を訪れていた。 ミーティアが、ゼシカがトロデーンを訪問した際には是非とも自分の部屋を訪ねて欲しい、と希望していたのだ。 同じ年頃である二人の話は尽きることがない。 竜の試練についての話に始まり、美容のこと、美味しいお菓子のこと、面白かった本のこと、市井で流行しているもののこと。 そして、恋愛の話。 「呪いが解けてからも、確かに色々ありましたけれども」 ミーティアはピアノを弾く手を止め、話を続けた。 「今はエイトが納得できる時まで待っていればいいんですもの。辛くはありませんのよ」 「そっか。それなら良かったわ」 そう答えるゼシカの表情がほんの僅かばかり曇ったのをミーティアは見逃さなかった。 「…もしかして、ククールさんと何かありましたの?」 ゼシカはハッとした後、苦笑して顔の前で手をひらひらとさせた。 「まぁ…いつもの事だわ」 「いつもの事って…」 「こちらに来る時に何となく窓から中庭を見たら、ククールがまた女の子に言い寄っているのが見えたの」 「まぁ!そんなことが…」 ミーティアは大きな目を見開く。 「ククールさんらしいと言えばいいのかしらね」 そう言ってクスクスと笑い始めた。 「姫様ぁ、笑うなんてひどい!」 ゼシカは頬を膨らませて抗議する。 「それでそれで?」 ゼシカの抗議にも関わらず、ミーティアは瞳を輝かせながら話の続きを促した。 「…それだけ」 「あら、メラゾーマとかはなさらなかったの?」 ミーティアはさらりととんでもない事を口走る。 「さすがに三階からは距離が…って、いや、そんなことじゃなくって」 ゼシカは自らの発言に突っ込みを入れてから話を続けた。 「えっと…最近、何だかそっけない感じがするの。そのくせ他の女の子には変わらずあんな風で…」 「寂しいのでしょう?」 …図星だった。 ゼシカは驚いてミーティアを見、直後に視線を逸らして話を続けた。 「旅してた時は結構親しくなれたかもって感じてたんだけど、それって私の思い込みだったのかな?なんて思うの…」 「喧嘩したわけではないのでしょう?」 こくっ、と、ゼシカは無言で頷く。 「それなら大丈夫だと思いますわ」 ミーティアは自信ありげに微笑んでそう言った。 「わたくし、こう思うんですよ」 暫しの沈黙の後、ミーティアは語り始めた。 「ゼシカさんはきっと、ククールさんのプティのたまごなんだって」 「ブティのたまご?」 聞いた事のない言葉に、ゼシカは首を傾げた。 「ブティのたまごというのはね。ピアノの先生に教えていただいたのだけど」 ミーティアは右手の指を少し曲げ、掌でたまごを持つ動作をする。 そして瞳を閉じ、子供に語りかけるような口調で話し始めた。 「プティのたまごは見えないたまご。ピアノで素敵な曲を弾く為に無くてはならない、だいじなたまご」 見えないたまごを持ったミーティアの右手が鍵盤の上に置かれ、軽やかにメロディを紡ぎ始めた。 「でもブティのたまごはとっても壊れやすいの。だいじにしていないと、すぐに壊れて消えてしまうの」 ミーティアはわざと指を延ばし、たまごの形を潰して曲を弾き続ける。 それは同じ曲のはずなのに、まるで違う曲に聞こえた。 「いつでも素敵な曲を弾けるように、プティのたまごはだいじにしましょう」 再びたまごを持つ形となった手で、ミーティアは曲を締めくくった。 「わたくし、ずっと見ておりましたのよ」 ミーティアはゼシカの方に向き直り、話し続けた。 「馬の姿で旅をしていた時、わたくしは皆さんの姿を後ろから見ておりました」 「姫様…」 「ククールさんが他の女性と歩かれているところをわたくしも何度か拝見したことがありますけど、いつもククールさんが先を歩かれて女性が後を追っている状態でした」 「そうなの?気にしたこともなかったわ」 ゼシカは目を丸くしてミーティアの話に耳を傾ける。 「今度はメラを我慢して、気をつけて御覧になるといいわ」 「今度って…。あんまり何度も見たくは無いんだけど」 苦笑するゼシカを見てミーティアはクスクスと笑った。 「でもね。ゼシカさんだけは違っていたの」 「えっ?」 「いつの頃からか、ククールさんはいつもゼシカさんの左側にいらっしゃるようになりました。歩く時も、戦っている時も。何故だかわかります?」 ゼシカは首を横に振る。 これも気にしたことがなかった。そして、何故だかも分からなかった。 「ククールさんは剣を左手でお使いになりますからね」 「!!」 ハッとするゼシカを見て、ミーティアは微笑んだ。 「ククールさんはゼシカさんの騎士ですよ」 「…あ…!」 ゼシカの脳裏に、ククールが幾度となく言っていた言葉が鮮やかに蘇る。 「ほ…本当…だったのね…あの言葉……」 途切れる言葉とは対照的に、ゼシカの瞳からはとめどない涙が溢れていた。 (…バカね……私…ほんとに……) 涙は雪解けの清流のように清々しく、ゼシカの心を潤していった。 「そしてゼシカさんはプティのたまごなの」 暫しの沈黙の後、ミーティアは再び語り始めた。 「とっても壊れやすい、でも失ってはいけない、だいじなだいじなプティのたまご」 ゼシカは溢れる涙をハンカチで拭う。 「ククールさんは、この先ゼシカさんとどう接して行けばいいのかをじっくり考えているのだと思うの」 ミーティアはピアノの椅子から立ち上がり、ゼシカの側に座り直した。 「竜の試練が終わる時を、わたくしとっても楽しみにしてますのよ」 やや冷めたであろう卓上のお茶をミーティアは口にする。 「エイトのことももちろんですけど、終えた時に皆さんがどう変わられるのかが、とっても楽しみ」 微笑みながら言うミーティアに、ゼシカも釣られて笑みを見せた。 どうにも涙が止まらないので泣き笑いの状態ではあったが。 「私も、楽しみになってきたかも…」 照れ笑いをするゼシカを見て、ミーティアは満足げに微笑んだ。 翌日。 何度目かの竜の試練を受ける為に、一行は竜神族の里から天の祭壇を目指していた。 エイトを先頭に、いつも通りの陣形で歩を進める。 (ほんと…ミーティア姫の言っていた通りだわ) ゼシカは自分の左側を付かず離れずの距離で歩くククールを見て、ミーティアの観察力に脱帽した。 移動中の何度目かの戦闘の後、ゼシカは試しにククールの左側に立ってみた。すると…。 「どうしたゼシカ?」 歩き始めてすぐククールに問われてしまった。 「えっ?別にどうもしないけど、何?」 ククールのあまりの反応の早さに驚いてしまったゼシカは、つとめて何でもないフリを装う。 「わりぃけど、そっちにいられるとなんか調子狂っちまう。いつも通りにこっちを歩いてくれよ」 そう言いながらククールはゼシカの肩に手を添え、ゼシカを自分の右側に移動させた。 「いつも通り…ね」 ゼシカは満足げに「いつも通り」という言葉を噛み締めた。嬉しさのあまり笑みがこぼれる。 「うふふ」 「なっ…何だよ?」 「何でもなーい」 ゼシカはクスクスと笑いながら再び歩き始めた。 「ミーティア姫にね、昨日言われたの」 歩きながらゼシカはククールに語り始めた。 「姫様が言うには、私はククールのブティのたまごなんだって」 ミーティアの話がすっかりお気に入りになってしまったゼシカは、ニコニコしながら得意げに話す。 それを聞いたククールは神妙な表情を浮かべ、沈黙してしまった。 (「何だそれ?」って聞いてくる?それともこのまま?どちらにしても、この話は姫様と私の秘密だけどね。ふふ…) 横目でククールの様子を観察しながら、ゼシカはその反応を楽しむつもりだった。 それで終わらせるつもりだったのだが……。 「参ったな…。姫様も上手い例えをするもんだ」 ククールはそう言いながら、右手で髪をぐしゃぐしゃとかき回した。 「えっ……」 今何て言った?と驚いてゼシカがククールを見やると、手に隠れていてその表情は伺えなかったが、耳が真っ赤になっていた。 (まさか……!!) 絶句するゼシカの顔は既に真っ赤に染まってしまっていた。 ククールは暫くの間黙っていたが、やがてゆっくりと話し始めた。 「それ…さ。ガキの頃、修道院でオルガンやらされた時に言われた…」 「うそ……知って…たん…だ」 動揺したゼシカはその一言を絞り出すのがやっとだった。 「プティのたまごは素敵な曲を弾く為に無くてはならない、壊れやすいだいじなたまご……だろ?」 こんな展開になろうとは、ミーティアも予想してはいなかっただろう。 運命の女神の気まぐれにも程があるというものだ。 「おーい、ゼシカ!ククール!ちょっと間隔あけすぎてるよ!!」 はるか前方からエイトが大声で呼び掛けてきた。 ゼシカとククールはハッとしてエイトを見、照れ笑いを交わした後に駆け出した。 「僕のわがままにみんなを付き合わせて悪いと思ってるけど、もう少しだけ頼むね」 済まなそうに言うエイトに、追い付いたククールはいつもの調子で応えた。 「おいおい、勘違いすんなよ。オレはお前の為に来てるんじゃねぇぜ?」 唖然とする三人にククールはにやりと笑って言い放った。 「オレがやりたいから来てるんだ。こんな機会、滅多にないだろ?」 「ククールらしい言い方でげすな」 そう言ってヤンガスが笑ったのを皮切りに、全員はその場で笑い出した。 「あとは、そうだな……これから素敵な曲を弾く為、かな」 「はぁ?」 ククールの言葉を受けて再び唖然とするエイトとヤンガスの脇で、ゼシカは一瞬驚いた後に微笑んだ。 さっきまでミーティアとの秘密の話の中の言葉だったはずのものが、いつの間にかククールとの秘密の言葉になっていた。 そういうのも、妙に心地のいいものだった。 いつもの青空が、より青く見えたのは気のせいだろうか。 水晶のように輝く不思議な階段を上りながら、ゼシカは思う。 これは、みんなの未来へと繋がる階段だ。 巨大な竜の頭蓋骨をくぐり抜けるところでククールは先に階段を数段飛び下り、振り向いた。 「お手をどうぞ、マイハニー」 「……バカ!」 そう言いながらもゼシカは、差し出されたククールの手に自らの手を委ねる。 見えないたまごの存在をその手に感じながら。 そして再びいつも通りの位置へと二人は戻る。 いつの間にか当たり前になっていた位置へ……。 一行はようやく頂上へと辿り着いた。 「みんな、今日もよろしく」 エイトが振り返り言うと、三人は不敵な笑みを浮かべて無言で頷く。 それは今まで幾度となく繰り返されてきた、強敵を前にした時の四人の英雄たちの儀式のようなものだった。 「さあ!行こうぜ!」 ククールの号令がその沈黙を破り、今日もまた天の祭壇の扉が開かれた。 ~ 終 ~